ハイテク歩行器 ひとみライト
概要
日本の視覚障害者の中で、約10万人は白杖を使い単独歩行で外出しています。9千人は家族やガイドヘルパー(注1)につかまって歩き、週に2ないし3回外出します。しかし、散歩や友人宅訪問などに、行政からの派遣ガイドヘルパーを頼むことができません。
盲導犬の稼動数は約一千頭で、需要に遠くおよびません。
そこでハイテク歩行器「ひとみライト」の登場です。
「ひとみライト」と名付けたハイテク歩行器は、手押し歩行車(シルバーカー)にステレオカメラとコンピューターを乗せた、視覚障害者のための歩行支援器具です。
「ひとみライト」にあらかじめ散歩や友人宅までの道順を登録しておくと、そのハンドルにつかまって歩いて、出発点から目的地点まで到達できます。その経路の事前登録を行うのは、専門的な訓練を受けたオペレータです。
進行中の「ひとみライト」は、スピーカーまたはイヤホーンを通して、言葉と警告音で利用者を安全な経路で道案内をします。
障害物が前方にあると"2メートル先注意"と発話し、さらに近づくと"ピー"と警告音をならします。塀や垣根に沿って歩くときは、近づき過ぎたり離れ過ぎたりすると警告音を鳴らします。
"ピッピ"は右に寄りなさい、"チッチ"は左に寄りなさいというサインです。真っ直ぐ進んで安全なときは、"ピンポン、ピンポン"と鳴らします。
"右に塀がある"、"広場か交差点です" などと、道路の状況も伝えます。
「ひとみライト」の使い方は、ハンドルの右のブレーキをチョンと押したり、長く押したりして、動いたり止まったり指令をする簡単な方法ですが、利用には若干の訓練が必要です。
右や左に寄ったり曲がったりするときは、歩行器の後輪を少し上げて、右または左にずらします。
交差点を渡るときは、赤信号が青になったのを確認してから、黄色い旗を揚げて渡ります。信号のない交差点では、自動車の走行音に注意して、渡るタイミングをはかります。
ステレオカメラによる歩行経路検出方法
「ひとみライト」は、市販の手押し歩行車、ノートパソコン、ステレオカメラ(山梨大学開発)、超音波センサー、磁気方位計、距離計などで出来ています。
ステレオカメラは、2台のビデオカメラを左右に20センチ離して置き、2つのカメラ画像の視差(横ずれ)から距離を計算し、近いものは赤く中間は黄色、遠くは青く示す距離画像で表現します。
ステレオカメラの検出範囲は角度52度の扇状で、距離50センチから約25メートルにある物体を検出します。
下図の右上は右側カメラ画像で、スカートをはいた人物①と、白壁②、街路樹③が写っています。右下は距離画像です。人物と街路樹は黄色に、白壁は赤ー黄ー青に写っています。
左は路面より10センチ以上の距離画像を垂直に投影したもので、三角形は幅80センチ歩行経路を示します。水平線はひとみからの距離をメートルで表します。人物、街路樹、白壁が写っています。
これによって「ひとみライト」が安全な方向を判断して、利用者を誘導します。
他の歩行支援手段との比較
「ひとみライト」を使うときは、そのハンドルに片手でつかまり、もう一方の手で白杖を使いながら、「ひとみライト」が発する音声案内で歩きます。
白杖では気づかない道などから突き出た棒や、道路上に置いた自転車、道で遊ぶ子供などを、障害物として検出して、それがあることを音声で伝えます。
ガイドヘルパーは人間ですから、どのような場面にも対処でき、白杖で歩行できない視覚障害者にとって、最高の歩行支援手段です。
しかし、地区によっては、散歩や友人宅訪問などには利用できません。また、利用にあたり予約しなければならず、急用には利用できません。
「ひとみライト」の重量は6キロ、高さ97センチ、幅50センチ、奥行50センチあります。白杖をもつ視覚障害者にとっては、階段の上り下りの持ち運びが困難です。
「ひとみライト」と「盲導犬」を比較してみましょう。
盲導犬はいつでも、どこへでも出かけられる歩行支援手段で、犬との心の交流と毎日の犬との散歩など人気があります。
全国で盲導犬の利用希望者は4,700名いると言われています。しかし、現在の稼働数は1000頭あまりで、需要に遠くおよびません。
「ひとみライト」は、玄関に置いておけばいつでも利用できます。「ひとみライト」はいつでもどこへでも出かけられ、道順を教えてくれます。
メンテナンスが容易で、集合住宅の住人でも利用できます。「ひとみライト」で横断歩道を渡るには、盲導犬利用と同様な訓練が必要です。
「ひとみライト」と、その前のヴァージョンである「歩行ガイドロボット(盲導犬ロボット)」と比較してみましょう。
歩行ガイドロボットは自動で動くので坂道を上がるときなどで楽です。また、直角でない形態の曲がり角や交差点などでは正しく誘導してくれます。
しかし、サイズは高さ、幅、奥行ともに1メートルと大きく、重量が40キロと重いので、玄関に置けず、ロボット小屋が要ります。
玄関から道路に出るのにスロープを設置する必要があります。車体は電動車いすを改良したもので、車輪が道路から脱輪すると戻れません。道路交通法は、自動で動く電動車いすを認めていません。製造原価が50~100万円と高価です。
それに対して、「ひとみライト」は軽量で段差などで容易に動かせて、道路交通法規にも抵触しません。
その部品は、市販の手押し歩行車(シルバーカー)、コンピュータ、ステレオカメラ、それに簡単な電子回路ですから安価です。コンピュータは利用者所有のノートPC(CPUコア5以上)でも利用できます。
(注1)視覚障害者ガイドヘルパーは、研修(最低20時間)を受けて資格をとり、障害者支援事業所などに登録します。視覚障害者は、行政かに対してガイドヘルパー派遣申請(月当たり50~100時間)をします。事業所に日時と利用目的を記した届を出すと、ガイドヘルパーが申請者宅にきます。利用目的は、病気通院や買物などで、散歩や友人宅訪問などは認められません。地区によっては、希望の日の1週間前に届ける必要もあります。現状はガイドヘルパー人員が不足しています。
NPO法人 歩行ガイドロボット
森 英雄
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電話&FAX 0551-25-3929
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